五年越しの、君にキス。


「梨良はさ、育ててくれた両親に恩返ししたいとは思わない?」

茶碗の中の濃い抹茶の色をじっと見つめていると、伊祥が不意に問いかけてきた。

「梨良の養父母の店、本店はともかくベリーヒルズ店はここ数年経営赤字なんでしょ?ベリーヒルズ・モールのテナント代は破格だもんねー。今はギリギリ保ってるみたいだけど、あとどれくらいもつか」

そんなことも調べられてたんだ……

はっとして顔を上げると、伊祥が私に向かって妖しく微笑みかけてきた。

「この団子屋さんが柳屋茶園の得意先ならもう知ってると思うんだけど……ここ、今月いっぱいで閉店するんだよ」

「そうみたいね。どこかの企業が、この屋上日本庭園の目玉にもなるような和風カフェをプロデュースするって聞いたけど」 

「そこまで知ってるなら話が早いな。それをプロデュースするのって、食品輸入や飲食店経営を主に行ってる、美藤ホールディングスのグループ企業なんだ。コラボ予定のブランド和食器の会社や和風スイーツを手がける有名パテシエとの打ち合わせなんかは順調に進んでるんだけど、カフェで使う抹茶やお茶の仕入れ先についてはまだ社内で候補を絞ってるとこなんだよね。で、今のところ、柳屋茶園がそこで使うお茶の仕入れ先候補のひとつ。ちなみに、そのグループ会社の代表を、今は俺が務めてる」

「何が言いたいの?」

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