五年越しの、君にキス。

初めて伊祥に話しかけられたとき、私は彼の顔は知っていたけれど、彼の名前も大手企業の御曹司であるという彼の肩書きも知らなかった。

伊祥の周りには、彼が大手企業の御曹司であることを知っていて近寄ってくる人も少なからずいたようで。

私のように彼に関する先入観が全くない人間と話すのが珍しかったらしい。

顔を合わす度に私に挨拶をするようになった伊祥は、そのうち同じ講義の度に隣の席に座ってくるようになり。

タイミングが合えば、ランチタイムに食堂に誘ってくるようになって。

気付けば、デートに誘ってくるようになった。

ふたりで会話をしていれば、冗談交じりに軽い口調で「俺と付き合おうよ」と何度か誘われた。

そんな伊祥の言葉にときどき戸惑いながらも、私はあまり本気にはしていなかった。

人当たりがよくて気さくな伊祥の周りには、男友達だけでなく、綺麗な女の子たちがいつもたくさんいたからだ。

正直、伊祥に全く惹かれていなかったわけではないけれど、誰にでも好かれる彼に本気になって、傷付くのが怖かった。

< 41 / 125 >

この作品をシェア

pagetop