五年越しの、君にキス。
顔を合わす度に「付き合おうよ」と、笑顔で調子のいいことを言う伊祥のことを、のらりくらりと交わしていたあるとき。
講義が終わって帰宅しようとしていると、伊祥が今にも死にそうな声で電話をかけてきた。
何事かと思ったら、前日の夜から熱が出て動けないと言う。
「一人暮らしで誰も頼る人がいない」と、苦しげな声で懇願されたら無視できなくて。彼の様子を見に行った。
今の家とは比べものにならないけれど、当時の伊祥がひとりで住んでいたマンションの部屋も、学生の一人暮らしにしては随分と広くて綺麗だった。
彼が美藤ホールディングスの御曹司だなんて知らなかったから、一LDKのカウンターキッチンがある部屋に驚いた記憶がある。
キッチンには、何度か使った気配がある調理器具が一式揃えられていて。
一人暮らしの伊祥のために料理してくれる女の人がいるのかな、なんて苦い想像をして。
その人を呼べばいいのにと、少しやさぐれた気持ちになりながら卵粥を作った。