五年越しの、君にキス。
呼ばれた気がしたけど、空耳か。ひさしぶりにこんなにそばでくっついていたから、感覚がおかしくなったのかもしれない。
少し頬が火照った伊祥の寝顔を見つめて、彼の額に手のひらをのせる。
そのとき、目を閉じた伊祥の睫毛が微かに揺れた。
ドキッとして慌てて手を退けた私の耳に、今度は確かに伊祥の声が届く。
「梨良、好きだよ」
眠っている彼が無意識でつぶやいた言葉に、ドクンと胸が震えた。
『どうせ美藤グループに何らかの利益がある結婚をしなきゃいけないなら、全然知らない相手よりも多少気心知れた相手を選びたい』
お見合いのときにそんな言葉を口にしていた伊祥だけど、企業グループの利益を考えるなら本当は、柳家茶園の養女である私よりももっと相応しい人がいたはずだ。
それなのに、五年前に伊祥の前から一方的に逃げ出した私のことを選んでくれたのは、伊祥が今も……
伊祥の熱い体温と、懐かしい香りに包まれているせいで、いつまでも胸がドキドキして落ち着かない。
寝言でつぶやかれた伊祥の言葉が、鼓膜の奥でリフレインして、明け方頃まで眠れなかった。