Romantic Mistake!

続いて「そういえば、どうしてあの原稿が必要なんですか?」と尋ねようとしたとき、お店の奥から「颯介さぁーん」と彼を呼ぶ高い声が響き、言うのを止めた。声は近づいてきて、見知らぬ女性がこの和室へと入ってくる。

「こちらでしたのね颯介さん。原稿を手に入れてくださったんですか?」

上品な白のワンピースをきちんと着たその女性は、パッチリとした瞳と長い黒髪が美しく、同性の私でもひと目で惹き付けられた。

桃香(ももか)さん」

桜庭さんは返事も兼ねて、彼女の名前を呼んだ。彼女は私に怪訝な視線を向けながら、私たちの間のお誕生日席にちょこんと正座する。私が気まずくてオロオロとしていると、桜庭さんがすぐに「紹介します」と声をかけてくれた。

「こちらは日比谷(ひびや)桃香さん。僕の婚約者です」

彼は彼女を手のひらで指し示す。私はそれをポカンと見つめた。

……婚約者がいたんだ。そりゃそうか、いたっておかしくないよね。「そうなんですか」と簡単な返事だけをして、なんとかがんばって彼女にお辞儀をした。おかしいな、なんで私、ちょっと残念に思っているんだろう。

「まあどちら様ですの?」

こちらがお辞儀をしたのに、彼女は返さずに桜庭さんへ顔を向ける。

「桃香さん、こちらは仁科麻織さん。北海道からこの原稿を運んでくださったんだ。お礼を言って」

「あらそうだったのね。お疲れ様! さっそく原稿を見せてくださる?」
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