Romantic Mistake!
再び和室はしーんとし、秘書の男性が今度は「桜庭部長!」と大声でたしなめた。しかしもちろん、桃香さんはハンカチを握りしめてボロボロと涙を流しており、ときすでに遅し。
「ひどいですわっ! そんな冷たいことをおっしゃる颯介さんなんて、こちらからお断りさせていただきます! 破談ですわ破談! 私のお父様に全部言いつけてしまいますから! 会社のお取引も決裂ですわ!」
涙をこぼしながら立ち上がった桃香さんの手首を、桜庭さんは「待って」と掴む。彼女は「今さら謝っても許しませんから」とプイッと顔を背けた。
「そうじゃない。原稿を置いていってくれ。それはもうきみのものではない」
うわあ……。桃香さんの顔はみるみる崩れ、怒りやら悲しみやらがにじみ出てくる。
「そ、そんな……」
「さあ、返して」
首を横に振って涙を浮かべる桃香さんだが、まったく折れてくれそうにない桜庭さんについに降参し、バサッと原稿を投げつけ、和室から走り去って行った。