箱崎桃にはヒミツがある
「俺は貞洋貢(さだひろ みつぐ)
 二週間後、お前と見合いするよう、お前の父親に頼まれた、お前の見合い相手だ」

 えっ? と桃は声を上げる。

 カルテを見ながら貢は言った。

「お前の父親は、たまにモデルとかチャラチャラやってるだけで、ほぼニートな娘を嫁に出したいんだそうだ。

 ……うちの親は、お前の父親になんの弱みを握られてるんだろうな」

 そ、それでお父さん、これ幸いと予約をとったんだな、と気がついた。

「ところで、今日はどうした」
と医者の顔になり、貢が訊いてくる。

「はあ、歯が欠けた気がするんですが、気のせいかもしれません」

「どの辺だ」

「左上です」

 貢はボタンを押して診察台を倒したが、桃は倒れなかった。

「……何故、倒れない」

「すみません。
 心の整理が……」

「見合いのことか?」

「いえ、歯の方です」

「大丈夫だ。
 滅多なことでは死なない。メス」
とさっきの歯科衛生士、尾藤(びとう)を振り向き、貢は言う。

「メス、いきなり使わないですよねっ。
 使ってても言わないですよねっ、歯医者っ」
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