箱崎桃にはヒミツがある
 そのとき、格段に魅惑的な女が出てきた。

 長い脚を惜しげもなく(さら)し、不思議な色形の服をそういうのもありかもね、と思わせる雰囲気で歩いてくる。

 軽く髪をかきあげた瞬間にチラリと見せた蠱惑(こわく)の瞳。

 ……誰なんだ、これは、と貢はフリーズする。

 一瞬、彼女と目が合った気がしたが、気のせいだろう。

 彼女は自分も父親も見てはいなかったからだ。

 (あで)やかなポージングのあと、優雅にターンし、歩き去る。

 その後ろ姿を追うように、みんなの顔がそちらを向いていた。

 次のモデルが出てきているのに、彼女が舞台袖に消えるまで、最後まで。

「まつげパーマ、ヒリヒリするんです~っ」
愚図(ぐず)っていた桃はそこにはいなかった。




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