千歌夏様‥あなたにだけです。〜専属執事のタロくん〜
千歌夏様‥好きなのですか?
「‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥です」

好きです‥

あの日、あなたに好き‥だと囁いた‥。
決して‥知らせる事はない想い。
それなのに、千歌夏様‥あなたを目の前にするとどうしてか自分の立場を忘れてしまいそうになる。


「くん‥タロくん‥?」

トントンッッ

ハッッ?!

「‥申し訳ございません」

目の前に千歌夏様が俺の顔を覗き込むように見ていた。

「何処か‥体調でも悪いの?」

「いえ‥大丈夫です。問題は解けましたか?」

「‥ええ‥でも難しくて‥」

千歌夏様の家庭教師をしている私は、毎日千歌夏様の部屋で二人で机に向かっている。
今日は、千歌夏様の苦手な数学の日‥
千歌夏様は、参考書とにらめっこしながら苦手な科目に取り組んでいた‥。
それなのに‥俺は‥
余計な事を考えている場合ではない。

「千歌夏様‥こういう時はこの公式に当てはめて考えて下さい‥。」

そう言って小柄な千歌夏様の背中をスッポリ覆うような態勢でノートに公式を書いて解いていく。
微かに千歌夏様の髪からシャンプーの香りが鼻をくすぐった。
可愛らしい‥抱きしめてしまいたい。

衝動に駆られる自分を戒めるように何度も言い聞かせる。
何を考えてる‥そんな邪な考えは捨てろ‥。
仕事に集中しろ‥‥。


「‥千歌夏様‥わかりましたか?」
そう言って千歌夏を見ると返事がない。
千歌夏様‥?
「‥千歌夏‥様‥?」

「‥‥‥‥‥‥み‥‥‥見ないで‥」

え?
俺が千歌夏様を覗き込むと彼女は耳まで真っ赤に染まっていた‥‥‥。
「‥千歌夏様‥どうされました?」

「‥だから‥違うの‥これは‥その‥」

千歌夏様の顔は更に真っ赤になっていく‥

「‥部屋が暑いのよ‥」

「そうですか‥いつもと変わりませんが‥」

「‥そうよ‥今日は何だか暑いわ」

そう言って千歌夏様は顔を手で覆ってしまった‥
部屋が暑い‥?空調はいつもと同じなはずだが‥

「‥‥‥‥‥千歌夏様大丈夫ですか?」

「‥‥‥‥‥‥‥‥‥タロくん‥」

「‥はい」

「‥タロくんは‥私の‥専属執事よね?」

「はい、もちろんです。」

「‥ずっとずっと‥一緒にいてくれるの?」

「はい‥もちろんですよ。」

「‥タロくんが結婚しても?」

え?俺が‥結婚?
どういう事‥だ?
「もちろんですよ‥それに私は結婚などしませんから安心してください‥。」

「本当に‥?」

そう言って見上げた千歌夏様は‥涙目になっていた。そして俺の顔をジッと覗き込む‥。
その顔が本当に‥可愛らしい‥
千歌夏様‥私には‥あなたしかいないのです。

「‥本当に‥本当?」

「はい、私はずっと千歌夏様にお使い致します。」
そう言っていつもの様に笑ってみせた。
‥安心して下さい千歌夏様‥。

「‥うん‥‥」
頷いた彼女の顔は更に真っ赤になっていく‥

「‥千歌夏様?」

「でも‥彼女とか‥作らないの?」

え‥‥‥‥‥‥‥‥‥?
まさか千歌夏様から‥そのような話が出るとは‥
「‥‥あいにく‥そのような方はいませんので‥」

「‥‥‥‥‥‥‥そう‥」
千歌夏様の声が暗くなる。

千歌夏様、さっきから‥何なんだ?

「どうされました?誰か好きな方でもできましたか?」

「えっ‥‥‥!」

千歌夏様は茹でダコの様な顔で俺を見た。

千歌夏様‥?まさか‥本当に‥
一体‥誰を‥
胸が‥ザワついていく‥








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