千歌夏様‥あなたにだけです。〜専属執事のタロくん〜
「‥‥そんなの‥タロくんに言えない‥」
そう言ってプイと顔を逸した。

そんなの‥駄目だ‥
誰かを好きになんて‥
自分の中の黒い感情が溢れてくる。

「もしかして‥入江ですか?」

「えっ?」
千歌夏様の最近の交友関係から推測して‥親しくしているのは入江くらいだ‥
それに‥明らかに入江は、千歌夏様を気にしている様子‥
千歌夏様も、入江の事を気に入っていた‥。

だから‥好きになるとしたら‥入江‥だ。
阻止しなければ‥
そんなの‥許さない‥
ドス黒い感情。
こんな俺を知られたら‥きっと嫌われるだろう‥。

千歌夏様が少し驚いた表情で見てくる。

図星‥か?

すると千歌夏様は、執事の黒いスーツの袖を掴みながら、見上げてくる。
「‥だったら‥どうなるのかしら?」

どうなるのかしら?とは‥?
それより‥千歌夏様はさっきから何が言いたいのだ?
返答に困る悲しそうな表情‥
今‥何と言えば‥笑ってくれるのだろうか?

「だったら‥」
許さない‥ですよ‥今すぐ、あなたにとって誰が1番なんかその身体に教えて差し上げます‥
何て‥
俺は何て愚かだろう‥
彼女は、私の主人なのだ‥。
無礼な態度は許されない‥。 
専属執事として振る舞わなければならない‥。

「‥‥‥タロくん‥‥‥だったらどうなの?」
さっきから何かを待つような表情‥‥
私は‥あなたに何と言えば‥よろしいのでしょう。

ギュッ‥‥‥‥‥‥
千歌夏様の手に力が入るのがわかる。
私を見上げるこの眼差し‥
こんな表情‥どこで身につけたんだ‥
悪い子だ‥
他の男子にはこんな表情をしないでくれ‥。

こんなに執拗に聞いてくると言うことは千歌夏様は、間違いなく誰かに恋をしているのだ。
見事‥振られるようにするには‥どうしたら? 

「‥タロくん?何で黙っているの?」

千歌夏様が俺の手をギュッと掴む。
ドキン‥
千歌夏様‥手が微かに震えている。
ドキン‥ドキン‥ドキン‥
私を見つめる千歌夏様の瞳から涙がこぼれ落ちる。

「ち、千歌夏様‥」
そんなに‥知りたいのですか。

「‥‥‥‥‥タロくん‥」
千歌夏様の瞳から涙が止まらない。

「‥‥‥‥タロくん‥」

ギュッ‥と袖を握りしめた手から力が抜けていく。
千歌夏様‥本当に‥好きな人が‥いるのですか。
ポロポロと涙がこぼれ落ちていく。
千歌夏様‥
その人が‥好きなのですね。

‥‥‥‥‥‥‥‥あなたが、誰かを好きになるなんて‥

その瞬間‥

俺は‥何も考えずに、千歌夏様を力いっぱい抱きしめていた。

「‥‥‥‥‥‥‥タロくん‥‥‥っっ‥‥‥」

「‥‥‥‥‥私はどうやら、失格なようです‥」

「‥どういう事?」

千歌夏様が俺の胸を押し戻そうとする‥
それを確認するように、もっとキツく抱きしめた。


あなたを誰にも渡さない‥
千歌夏様‥あなたは私のものだ‥。
どうやら、俺は‥専属執事失格の様です。

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