呪イノ少女、鬼ノ少女
呪イノ眼
「履けました?」

「大丈夫よ、雛ちゃん」


昼少し前、澪は雛子お手製のリュックを背負って、丈夫な靴に足を通していた。

目の前に立つ雛子も麦わら帽子をかぶって、外出の格好である。


「でも本当にワクワクするなぁ」

「そう…?よく分かんない」


これから山登りをするのだ。

都会の温室で純粋培養された澪は、もちろん山登りなどしたことない。


だから楽しみで仕方ないのだ。

しかも目的地は父の生まれた家なのである。


今朝どこかに出掛けるという茜が、訪ねてはどうかと勧めてくれたのだ。

自らの事を何も語らなかった父の生家だ。

胸が高鳴らない方がどうかしている。


「母さんから場所は聞いておきましたよ。…けど、澪さんには厳しいかも」


澪はお世辞にも運動が出来るようには見えない。

いかにもトロそうである。


「そ、そんな目で見ないでよー。これでもラクロス部なんだよ…一応」


高校の友達に誘われて、断り切れずに入部したのだが、実の所あまり参加はしていない。

変わりに、図書館に引き籠もって本を読んでいることの方がずっと多い。


「凄い!って、ラクロスって何ですか?」


そんな澪の事情など露知らず、雛子はラクロスという未知の言葉に目を輝かせた。
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