冷徹旦那様との懐妊事情~御曹司は最愛妻への情欲を我慢できない~
『それは言えない。事実ではなくただの私の勘違いだったからな』

濁されて苛立ったが、追及して口を割る父ではないと長年の付き合いで分かっていた。

それに和泉としても、話を先に進めたいと気が急いている。

『そうですか。まあ和倉百貨店のご令嬢なら大きな問題はないでしょうね』

顔に出さないように抑え平静さを装っているが、内心は荒ぶりドクドクと脈が激しく打っているような状態だった。

(奈月との縁談……)

身勝手に別れを告げ、和泉を振り回した彼女と結婚なんてあり得ない。

だいたい今更どんな顔をして見合いの席に来るというのだ。

もし図々しくも現れたら罵っても許されるはずだ。

彼女への怒りが膨らむ一方で、もう一度やり直せるかもしれないという認めがたい想いも生まれはじめる。

正反対のふたつの感情があり、和泉自身どうしたのか分からなかった。

『令嬢の名前は愛理だ。年齢は二十四歳。週末に顔合わせをするから調整しておくように』

『……愛理?』

思いがけない名前に、和泉は目を見開いた。父が怪訝そうにする。

『なんだ?』

怪訝そうな父から目を逸らし、和泉は考えを巡らせた。
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