冷徹旦那様との懐妊事情~御曹司は最愛妻への情欲を我慢できない~
冷静に冷静にと自分に言い聞かせてから、和泉に問いかける。

「本日はどのようなものをお探しですか? よろしかったら何点かお持ちしますが」

ようやく普段の調子を出せたと思う。姿勢もしっかり伸びている。以前失敗した化粧も今日は問題ないはず。

和泉の返事を待っていると、彼は口を開く代わりに奈月との距離を詰めて来た。

「え? あの……」

戸惑う奈月に彼は声を潜めて言う。

「また奈月さんと食事をしたいと思って。休憩は何時から?」

奈月はますます動揺した。

(どうして私を食事に誘うの?)

目の前の男性は大富豪司波家の御曹司。
わざわざ奈月を誘わなくても、彼と食事を共にしたい相手は列をなしているはずだ。

(あ……もしかして器の話をしたいのかな?)

以前食事をした際、彼は熱心に奈月の話を聞いてくれた。

(そうだよね。私を誘うというより、広川堂の従業員に声をかけてるんだ)

個人的に誘われたと思い込むなんて、あまりに図々しい。

自意識過剰な考えを恥ずかしく思う一方、何かがしゅるしゅると萎んでいくような残念さを覚えた。
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