罪か、それとも愛か

大通りはすぐそばだ。さっきから何台も空車と表示されたタクシーが通り過ぎていくのが見える。
道行く人も増えてきた。仕事帰りなのだろうか、急ぎ足で二人の脇を通り過ぎていく。

だが、琴羽にはそんな人や車の流れなど見えない。
自分だけ時間が止まってしまったような感覚だった。


冬輝がくれた言葉は、本当は琴羽が一番欲しかった言葉。
冬輝が与えてくれようとする存在は、琴羽にとって理想とも言える存在。

でも。
それは、琴羽にとって都合が良いだけ。
彼の未来に琴羽は何もしてあげられない。


「両親をずっと見てきたから、医師という仕事の大変さをよく知っている。知力と体力だけで乗り越えられる激務じゃない。
父には母が、母には父が。誰より信頼し支え合える人がいて乗り越えていた。
冬輝にもそんな相手が必要だよ。
私は冬輝に何も返せない。冬輝にとって邪魔な存在になる。
ありがとう。冬輝の気持ちはすごく嬉しかったよ」

琴羽はそう言って、冬輝に背を向けた。
空車のタクシーが見える。サッと手を挙げるとタクシーがかたわらに止まった。

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