罪か、それとも愛か
「俺の気持ちは変わらない。
琴羽から何かを得るつもりはない」

冬輝はそう言って、開いたタクシーのドアに琴羽の体を押し込むと、自分もその隣に乗り込み、運転手に行き先を告げる。


タクシーが走り出す。

琴羽はタクシーのドアに体を預けて、流れる景色をぼんやりと見つめた。


冬輝の言葉は、魅惑的だ。
本当は甘えたい。何も言わずにただ抱きしめて欲しい。
でも、琴羽の都合よく彼を利用していいわけない。
かろうじて残った理性が、ストッパーになっていた。


タクシーに乗ること15分程度で自宅に着いた。


「母さんが用意してくれてる。夕飯、食べていけよ」

ーー今日は夜勤です。冬輝と食べてね。

スマホに柊子からメッセージが届いていた。

仕事がある日は、一条本家で花音と夕飯を食べる。
それ以外の日は、水上家で柊子と一緒に食べる。
柊子が夜勤の日は冬輝と一緒に食べる。

おかげで夕飯を食べないことがなくなった。

食事をすることは生きること。母が言っていた教えだ。周囲の協力で母の教えを守ることが出来ている。


琴羽は柊子に感謝のメッセージを返すと、冬輝と共に水上家へと入った。

ダイニングテーブルに唐揚げがてんこ盛りで置かれている。
ひょいと唐揚げを一つつまむ。柊子特製の味が口いっぱいに広がった。

「ほら、冬輝も」

もう一つつまんだ唐揚げを、今度は冬輝の口に放る。琴羽の柔らかな指がわずかに冬輝の唇に触れた。
琴羽にとっては特別な行動ではない。
でも、そんな無意識の行動が冬輝の心をくすぐる。

「美味しいね。
柊子さん、忙しいのにいつも私を気にかけてくれて。感謝しかない」
「メシにするか?」
「うん。お皿、用意するね」

琴羽は羽織っていたダボダボの長袖のシャツの袖をまくった。シャツからのぞく腕に、無数の打身の跡がある。
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