罪か、それとも愛か
「一条社長!」
「これは、五嶋社長。お久しぶりです」

そこへ現れたのは五嶋商事の社長だ。
でっぷりと太り、真冬だというのに額は汗で光っている。

「一条社長、今日は奥様ご一緒ではないんですね」
「妻は今ニューヨークにおりまして」
「さすがは敏腕弁護士。才色兼備の奥方で羨ましい限りです。ですが、これからはアメリカより東南アジア方面ですよ。気候は温暖で、労働力も豊富で安い」

拓人は小さく儀礼的に笑みを作りながら、五嶋社長の隣、こちらもふくよかでひどく化粧が濃い年配の女性に声をかけた。

「千鶴さん、お久しぶりです。お元気そうですね」
「お陰様で。拓人さん、お隣の方はどなた?」

五嶋の妻千鶴(ちづる)は、『一条』の遠縁だ。

「会うのは初めてでしたか?
私の従兄弟、翔太の娘です。今日は妻のいぶきに代わって…」

「あぁ、翔太さんの……でしたら、今は医学生かしら?」

千鶴が琴羽を見る目が変わる。
バカにしたような、上からの目線。彼女は琴羽のことを知っていて、わざと医学生という言葉を使い馬鹿にしている。

だが、琴羽は全く気にも留めずさらりと言い返す。

「いえ。医学の道には進みませんでした」

そう琴羽が答えると、千鶴は嘲りをはらんだ笑みをこぼした。

「あら失礼。医学部には進めなかったのよね?」
「これ、千鶴。すみません、一条社長」
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