罪か、それとも愛か
「おいおい、うちの娘にしがみついているこいつは誰だ?」

翔太は眉をひそめながら、拓人に尋ねた。

「五嶋商事の社長の息子。琴羽の大学の同級生だってさ」

五嶋の名前で、翔太には嫌悪を抱く遠縁の親戚の名前と顔が思い浮かんだ。

「五嶋?千鶴には子供出来なかったよな?」
「あぁ。あの女の血は流れていないから、一条とは何の繋がりもない」

翔太が察してなるほどと、うなづいた。

琴羽にしがみつく五嶋はもはや失神寸前。返事すらできない状態だ。さすがの琴羽も力の抜けた大の男の体をいつまでも支えておけず、傍らのマリアに助けを求めた。

「マリア、手を貸して」

「OK、ちょっとシゲキがつよすぎたかしら。ハンサムだけどメンタルのよわいおとこネ。
カレシにヤボなことしたらダメってみまもってたんだけど。てをかすわ。
ドクターショウタ、えっと……ambulance(救急車)いる?」

マリアはアメリカ人だ。黒川と結婚して日本で暮らすようになってから日本語を覚えたのだが、ネイティブな発音はどうも苦手。おまけに”野暮”なんて単語を使いこなすのに、救急車という単語が出てこないのだから、翔太も笑ってしまう。

「いや、少し様子を見よう。まずは、どこかに座らせて。水があれば飲ませたい」

「OK、あります、ウォーター。これ、ドウゾ」

マリアは、ベルトホルダーに下げていた小さな水のペットボトルのキャップを開け、五嶋の口元に運んだ。それから、近くの植え込みのレンガに座らせる。

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