罪か、それとも愛か



琴羽はふと香ったにおいにハッとなる。
それは父や母と同じ、わずかな消毒液のにおい。琴羽が一番安心するにおいだ。
冬輝が自分の着ていたジャケットを琴羽の肩にかけてくれたのだった。

「着てろ。風邪引くから」
「いらない。
……こんな着古したジャケット、ドレスと合わないじゃない」

このにおいに包まれていると心がゆるんでしまう。琴羽は下手な言い訳をしてジャケットを冬輝に突き返した。

「この状況だ、妥協しろよ。セクシーな姿をマスコミに写真とられても困るだろ」
「冬輝くんの言う通りよ。頭から被って顔を隠したっていいくらい。今日の功労者を写真に収めたいと思っている輩がウロウロしてるんだから」

花音にも言われてしまうと断れない。琴羽はしかたなく冬輝のジャケットを羽織った。

ジャケットのにおいとぬくもりで、冬輝に抱きしめられているような錯覚になる。
かろうじて理性で正気を保っているが、冬輝の前でだけ見せられる『死』を恐れる弱い自分が顔を出しそうになってしまう。


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