罪か、それとも愛か
「仕事の話は食事が終わってからにしない?せっかくの美味しい料理だから堪能させてよ。私、仕事モードの時は食事ってただの栄養補給のための手段になっちゃって、味とか分からないの」

「あはは、なるほど。わかったよ。
それにしても懐かしいな、このホテル。あの事件に巻き込まれるまで琴羽が一条のお嬢様だなんて、全然想像してなかった」

「あの頃は、心の緊張を解く場所が必要だったの。誰も『一条』のことを知らないあの学生生活は、私にとってほんのわずか解放される時間だった。懐かしい」

遠い思い出に思いをはせると、五嶋もうんうんとうなづいた。

「今は?琴羽の心の緊張をほぐせる時間や相手は、いるのかい?」

その問いに、ふと冬輝の姿が思い浮かぶ。

冬輝とは一緒の時間を過ごすことも少なくなってしまった。

ーーたまには、ぎゅっと抱きしめて欲しいな。
心も体も、あたたかさを忘れてしまいそう。

淋しいとか辛いという感情が湧く暇もあたえないように、寝る間も惜しんで仕事に邁進している。
社会人になり責任も増え、琴羽の精神は常に緊張の糸を張ったままだ。緊張は体も心も冷たくさせ、いつしかその冷たさが当たり前になっていた。
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