罪か、それとも愛か
「ありがとう。でもその気持ちに応えられない。私の人生に恋愛とか自分のために使う時間はないの。
五嶋くんだって忙しいでしょ?五嶋商事はこの間の東南アジアでのテロ事件で結構厳しい状況よね」

五嶋がハッとなってみるみる表情を変えた。それは五嶋には似合わない、疲れの滲んだ影のある暗い表情だった。

「まだ公表してないのにさすがだな。
琴羽のいうとおり。だから帰国命令が出たんだ。日本に帰ってすべての泥を被れって。
俺さ、アメリカでは五嶋の後継者として失敗することを恐れた周囲に守られて仕事をしていた。自分で成し遂げた仕事はないんだ。実力不足はわかってる。
だからどうしたらいいか不安なんだ…琴羽、助けてほしい」

「五嶋商事の仕事を?」

「正直、五嶋商事なんて俺にとってどうでもいいんだ。いっそ同族経営なんてやめて優秀な人材に任せたい。でも父が納得しない。
俺のせいで多くの従業員を路頭に迷わせることはできない。八方ふさがりというか、重圧におしつぶされそうだ」

歯をぐっとかみしめ、おのれの無力さを説く五嶋。

「だから琴羽、一条の力で五嶋商事を救ってくれ。
俺と結婚してくれないか。妻となった琴羽が五嶋商事に手を出すなら誰も文句は言わないはずだ」

「結婚?」

そういえば、あの襲撃事件のときも五嶋は琴羽に結婚をほのめかした。琴羽と結婚し『一条』の名前も手に入れる。五嶋も琴羽の周囲に湧く安易で低俗な連中と同じなのかと、落胆したものだ。
彼はあの頃と変わらないのだろうか。
< 192 / 252 >

この作品をシェア

pagetop