罪か、それとも愛か
「もちろん結婚と言っても、普通の結婚生活は求めない。一緒に暮らしてくれなくてもいい。五嶋を潰してもいいし、一条に吸収したっていい。琴羽の好きにしてくれて構わない。
ただひとつの願いは、五嶋商事に勤めている従業員の保証だ。
彼らを一人残らず救いたい。みんな、誇りを持って仕事に情熱をかたむける優秀な人材ばかりなんだ。
これほどに会社の経営が悪化したのは、傍若無人で周囲の意見も聞かず、無謀な事業拡大を続けた父のせいだ。
所詮、俺は五嶋の後継者というメッキを被せた普通の人間だ。父に代わって責任を負うなんて言ったところでどうしたらいいのか全くわからない。
琴羽。俺に慈悲をくれ。哀れみでも構わないから、俺に救いの手を差し伸べてくれ。
俺と結婚して、五嶋商事を救ってくれ」

五嶋は座っていた椅子を後ろに倒す勢いで立ち上がったと思うと、琴羽の足元でいきなり土下座をした。

ーーあの頃とは違う。

五嶋は自分の保身だけで琴羽との結婚を提案しているのではない。自分の能力の足りなさを認め、好きだと言っておきながら、自分の感情は押し殺し、琴羽に自分の背負うものを救ってほしいと懇願しているのだ。

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