罪か、それとも愛か
「うわ、この前菜うめぇ!なんだかわかんねーけど、口の中でとろけるじゃん」
五嶋はシェフ渾身の料理に舌鼓を打つ。なんとも表情が豊かで、見ていて飽きない。
とりあえずは当たり障りのない会話をしながらコース料理を楽しんだ。
「あぁ、美味しかった。大満足」
ポンポンとお腹をさする仕草をする五嶋。
琴羽は食事が終わるこのタイミングを待っていた。
「五嶋くん、あのね」
「まって、琴羽。
今、すっごく幸せな気分なんだ。美味しい食事にきれいな景色、こんなおしゃれな空間に琴羽と二人きり。もう少しだけ、余韻に浸らせて」
やっと切り出した話の内容を察したのだろう。遮られて琴羽はぐっと言葉を飲み込んだ。
「今、現実を忘れて夢見てるみたいに幸せなんだ。
もう、何もかもを捨てて」
五嶋はそこで言葉を区切ると、窓の外の夜景に目をやった。遠くを見る目はぼんやりとしている。
「いっそこのまま死んでもいいって思えるくらい。
俺が全てを被って消えれば、うやむやのまま誰も傷つけることなく終わらせることが出来るしな」
"死んでもいい"
その言葉を聞いた途端、琴羽から一切の表情が消えた。
「琴羽?」
見る見る青ざめていく琴羽に五嶋が声をかける。
すると、琴羽は無表情のまま、目の焦点だけ五嶋に合わせた。その無言の圧力に、五嶋は思わずたじろぐ。
「ど、どうしたんだよ、琴羽」
「死んでもいいって、今、それ本気で言ったでしょ。私、軽々しく『死』を口にすることが許せないの。
それに、今、五嶋くんがいなくなれば五嶋商事に未来はないわ。真面目に仕事してきた従業員を路頭に迷わせていいわけない。そんな無責任なことするくらいなら、最初から私を巻き込まないで」
その一言にハッとなる。五嶋は軽く言ったつもりだった。実はそれこそが本心なのだと琴羽に見透かされていた。