罪か、それとも愛か
「…迷惑かけてゴメン。大丈夫」
「こっちこそ、心配かけてごめん。まさか、自分が死んだことになってるなんて思いもしてなくて」

琴羽は母親を亡くしてから、“死”に対してひどく敏感だ。死に直面したり意識したりすれば、母親の事を思い出してパニックを起こす。自分も死に飲みこまれたと思い、体が冷たくなってしまうのだ。

だから、常に死と向かい合う“医師”という仕事を諦めるしかなかった。
でも、医師を諦めるというのは、母親の夢を壊す事。医師となった冬輝と一緒に人生を歩み、自分自身も理事長として病院の経営に携わっても、医師を諦めた事実は琴羽の心の奥底を蝕んでいた。


「過去は変えられないのにね。いまだに死が怖い。ママへの後悔と背負った罪を思い出させるし、死の恐怖はずっと付き合っていかなきゃならない」

琴羽は、冬輝の隣、手を伸ばせば届く距離を保って座った。

…まだ、体の奥が冷たい。恐怖がくすぶっている。ともすれば再びこの体を死へと引きずり込もうとしているよう。

琴羽は自分の腕で自分の体を抱きしめた。

ーーこんなに近くにいるのに、私は、冬輝に何かあったときに一番に連絡がくる家族ではない。

自分で望んだことだし、わかっていたはずなのに、実際に経験してみるととてつもなく悲しくて切ない。お前は冬輝の隣にいるべきではないのだといわれた気がした。


『冬輝先生と入籍して』

先ほど聞いた花音の言葉が今さらながら心を占めていく。







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