罪か、それとも愛か
「朝ごはんいらない」
「朝ごはんはバランスよく、ちゃんと食べなさい。食事することは、生きることよ」
「時間ない」
「じゃ、せめて牛乳」

母が差し出したコップに注がれた牛乳を、仕方なく一気に飲み干す。

「いってきます」
「あ、待って、お弁当!」

母が差し出した見慣れたお弁当箱。蓋が透明だから中身が見える。
琴羽のお弁当は野菜の煮物に、ほうれん草のおひたしと、卵焼きに焼き魚と毎日同じ内容だ。

「いらない。地味で弁当を開ける楽しみもない。
女子高生のお弁当なんだからもっと可愛くして?夏姫のお弁当なんて、すごく美味しそうなんだよ。これなら、パンのほうがいい」

「柊子さんはセンスあるからなぁ。比べないで。
栄養はしっかり取れるから、文句言わずに持って行きなさい」

母は有無を言わせず、琴羽の手に持たせた。
母が強く言うと琴羽は逆らえない。男勝りな母を本気で怒らせると、大変なことになるからだ。

ーーお弁当忘れたことにして、購買でパンを買えばいいや。

琴羽は、渋々弁当を鞄に押し込み、ふてくされながら家を出た。


母が『いってらっしゃい』と笑顔で手を振っていたのに、無視した。
母のため息が聞こえた気がしたが、ささやかな抵抗だった。
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