罪か、それとも愛か
琴羽は冬輝を見上げた。

「琴羽?」

自分の名前を呼んでいるその唇の動きが目にとまる。


ーー琴羽。


笑顔で呼んでくれた母の唇は、白く冷たく固く閉ざされていた。
それが、『死』だ。温もりや意志のない、それはまさに『無』だった。


琴羽はぶるりと震えた。

母を『死』によって永遠に失った。
そして、その『死』は琴羽をも導こうとしている気がして、怖かった。

そっと手を伸ばして、冬輝の唇に触れる。

「ママは、もう、私を呼んではくれない。
冬輝の唇は温かくて柔らかい。生きてるってこういうことよね」

反対の手で自分の唇にも触れる。だが、冬輝に比べてひどく冷たく感じた。

「私、冷たいわ。冬輝、私、冷たい。私もママと同じ」
「馬鹿を言うな。琴羽は生きてる」
「怖い…冷たさが怖い…助けて…冬輝…私、『死』に取り込まれてしまいそう」

震える手で、琴羽はもう一度冬輝の唇に触れた。
その柔らかさと温かさに『生命』の力を感じる。

『死』を振り切りたくて。自分は生きていると実感したくて。

琴羽はそっと自分の冷たい唇を、冬輝の唇に重ねた。


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