罪か、それとも愛か


冬輝に抱きしめられながら琴羽は自分の唇にそっと触れる。
氷のように冷たかった唇は冬輝のぬくもりでほんのり温かさを取り戻していた。

ーー冬輝にぬくもりを、生きる力を分けてほしい。

冬輝に助けを求めることは私のわがままだ。わがままは子どもの特権だ。
ママが死んだ今、私はもう子供ではいられない。大人にならなきゃならない。
どうやって?どうやったら大人になれるの?


ふと思い出したのは、予備校帰りに聞いた同級生の男の子のセリフだった。


ーー大人になりましたってことで。

そうか。
肌を重ねれば、ぬくもりを分けてもらえて大人にもなれる。

私は、生きていける。

導き出した答え。
その答えを実行できるのは、目の前にいる冬輝しかいない。
でも、このわがままは今まで二人で重ねてきた関係を壊すことになる。

わかっているけれど、私は。

私には、冬輝しかいない。


「冬輝。私を助けて。
ママが死んだ。もう私は子供じゃいられない。だから、子供の自分を捨てて、大人として生きていかなくちゃ。
大人として生きる為にお願いがあるの。冬輝にしか頼れない。
私、一人じゃどんどん冷たくなってしまう。寒いの。怖いの。『死』に飲みこまれそう。
だから」

琴羽はほんの少し言い淀む。
次の一言を発すればもう戻れない。冬輝を兄のように慕って甘えていられた関係には戻れない。
それでも琴羽が生きて前に進む為には、どうしても必要な儀式だ。
冬輝にすがるしかない。

「……抱いて。
大人として生きることを一番実感できるはずだから」

意を決して発した声は、震えてかすれていた。


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