罪か、それとも愛か


目が覚めると暗闇の中だった。
琴羽は目をこらす。ここは見慣れた自分の部屋だ。


階下で大勢の人の気配がする。複数の物音、足音、言葉として聞き取れはしないがざわめきもあった。


ゆっくり体を起こす。
動かすと体のあちこちに痛みが走った。


ーー痛いということは、私、生きてる。
医者として必要とされ、多くの人を救ってきたお母さんは呆気なく亡くなったというのに、何も出来ない私は生きてる。


先ほどの情事の名残で体はまだ熱い。その熱さと、体に残る痛みが生きている現実を教えてくれた。

兄と慕う冬輝に無理やり抱かせた。きっと生真面目な冬輝は今頃、罪の意識に苛まれているだろう。

でも、あの時冬輝にすがらなければ、きっと生と死の狭間で揺れたまま、現実に戻って来れなかった。

冬輝じゃなくてもいい、心は要らないなんて言って煽った。
他の誰にもこんな弱い自分をさらけだすことなんてできない。冬輝じゃなきゃダメだったくせに。
私はずるい女だ。
いくら優しい冬輝でも軽蔑しただろう。

それでも。
情熱的に抱いてくれた。冬輝の体温と生きている力を分けてもらった。

だけどあの時間と引き換えに、もう今までのように無邪気に彼に甘えることは出来ない。

ーー冬輝に恋人を裏切らせてしまった。
私はまた一つ、罪を背負った。

だから、強くなる。


ずっと母の背中を追いかけて、憧れて、でも素直になれなかった子供の自分はもう捨てた。
今から私は、大人として自分で責任を持って生きる。

ーーお母さんはもういない。
私は新しい目標を見つけて生きていかなければ。

まずは、熱いシャワーを浴びよう。
全ては、そこからだ。




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