罪か、それとも愛か
「琴羽、落ち着け」「琴羽、ダメよ」

今にも殴りかかりそうな勢いの琴羽に、冬輝と夏姫が二人がかりで止めていた。


「琴羽!」

そこへ翔太が駆け寄り、琴羽をぎゅっと抱きしめた。

父に抱きしめられたのは、いつ以来だろう。 
父からは、ほのかに消毒液の匂いがする。

ーー幼い頃からパパとママはいつもこの匂い。どんな香水より、安心する匂い。

琴羽は我に返り、少しずつ落ち着きを取り戻した。


「貞三さん、松子さん」
「あ、た、拓人くん。久しぶりだね。君は相変わらず立派だな」

そこへ拓人が翔太と琴羽を守るように、老夫婦の前に立ちはだかった。
不気味に思えるほどその端正な顔は無表情だ。その迫力に、老夫婦の表情に怯えが浮かぶ。


「今まで五嶋商事に嫁いだお嬢さん、千鶴(ちづる)さんの顔を立てて見逃していましたが。
お任せした会社を潰し、その負債はまだこちらで肩代わりしたままです。この何十年というもの、お二人は一条の為にプラスよりマイナスばかり。
しかも、翔太の家族を侮辱しましたね?
まことさんは、最高に素晴らしい医師だった。患者のためにはもちろん、一条家のためにも命を削って力を尽くしてくれました」

「だが、所詮は農家の娘だろう?」

「それが何か?今の時代、古いだけの血筋にすがっているだけでは世の中渡っていけませんよ。努力を怠ったご自身を恨みなさい。
いぶき!お二人はこれでお帰りだ。丁重にお見送りを頼む」

それまで見守っていたいぶきが、やるべきことはわかっていると言わんばかりに頷いた。

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