罪か、それとも愛か

「なんだ、琴羽、全然進んでないじゃないか」


琴羽が机に向かっていてもしばらく動かないことに気づいて、冬輝は手元を覗き込んだ。


「…全然集中できない。
私、自分が医者になる姿が想像できない。小さい頃から、ママみたいになりたかったはずなのに」


二人きりになると、琴羽から笑みが消える。
琴羽は隣に来てくれた冬輝を潤んだ瞳で見つめた。

普段の琴羽は母が亡くなる前と変わらず元気に笑顔をみせていた。皆、琴羽は強いと思っていることだろう。

だが冬輝と二人きりになると笑みは消え、その顔は深い陰りを帯びる。


「…泣きたくない。
私は生きているんだもの。前を向いて、元気出さなきゃ。
ごめん、冬輝。もう、元気のエネルギー切れ」


そう言って手にしていたペンを置いた琴羽は、まるで羽が傷ついた小鳥のようだった。

広げた羽でどこまでも空を飛べるはずなのに。希望も目標も見失い、ただ痛みにうずくまるようなそんな弱々しい琴羽を放っておけない。


冬輝は涙を溜めた琴羽の目尻を指で拭う。
視線が重なる。
冬輝の瞳に吸い寄せられるように、琴羽が冬輝にしがみついて、それが合図になる。


琴羽が自分を求めてくれると満たされる。
琴羽を助け支えることが、まことの遺言でもあり己の使命でもあるような気がするから。

冬輝は今日も罪の意識から目を背け、琴羽の望むままに温もりを共有した。

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