罪か、それとも愛か
「医師にならないなら、マコさんの夢は?マコさんの夢の病院を一緒に支えるって。
お兄ちゃんと私と琴羽と、みんなで協力して働くんだよね?」

夏姫に言われて苦しくなる。
医師にならなければ、母の夢は叶えられない。
琴羽の親不幸という罪が一層重くのしかかる。

「落ち着け、夏姫。形を変えるだけだ。
医師としてじゃなく、経営側としてアプローチすればいい。なぁ、琴羽?」

琴羽が医師になるという母の望みは叶えられない。
でも、母が目標としていた夢の病院作りは、形を変えて携われる。

冬輝がそう教えてくれた。
不意に心が少しだけ軽くなった。

「そうね。
冬輝は医師、夏姫は看護師として現場で。私は二人が働きやすい環境を整える裏方に回る」

「そっか……。形は変わっても、夢は叶えられるよね。
琴羽が決めたのなら、応援する!頑張れ、琴羽!」

悲痛なまでの琴羽の決意に、夏姫は心打たれた。

「夏姫は?もう、願書出した?」
「うん。大阪の学校。決まれば寮暮らし」

夏姫は、母の柊子と同じ看護師を目指して看護学部を志望している。高校の附属大学である光英大学ではなく、他大学を受験する。
光英大学病院では両親が働き、医学部には兄がいる。だから甘えてしまいそうで嫌だと言って。

「そっか。夏姫がいないと寂しいけど…私も一人で頑張らなくちゃいけないね。
夏姫、冬輝。私、今まで二人にすごく頼ってきた。支えてくれて、ありがとう。でもこれからは、一人で乗り越えていかなきゃね。
見てて。私、バリバリ仕事こなせるキャリアになってみせるから」

「ヤダ、琴羽、そんな寂しいこと言わないで!
私はいつでも琴羽の味方だよ!!大好きだから」

目尻に涙を溜めて、夏姫が抱きつく。

「ありがと、夏姫」

自分より小柄な夏姫の背中を優しくポンポンとたたき、その肩越しに冬輝を見た。

冬輝は珍しく感情の読み取れない無表情で琴羽をただ見ている。
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