罪か、それとも愛か
そもそもフリースクールを立ち上げるきっかけになったのは、黒川のもとで琴羽と一緒に護身術を学んでいる桜木組の構成員だった。
彼は自分には価値がないと思い込みすぐ捨て身になる、命知らずの無鉄砲だった。
そんな彼は洋画が大好きで何度も見ているうちに耳で英会話を覚えていた。ネイティブ顔負けの発音に驚かされた。試しにちょっと教えたら、少しの空き時間も勉強に費やし、あっという間に読み書きもできるようになった。
世の中には、本来受けられるべき教育を受けられず、才能も能力も発揮出来ずにいる人材がいるのだと知った。
そこで琴羽は学のあるやくざに協力を求めて先生になってもらい、生徒には学ぶ楽しさを、先生には教える充実感を、そして何より命の大切さを知ってもらうために、フリースクールを立ち上げた。
今ではヤクザだけでなく、様々な理由で学校に通えなかった人達を受け入れ、細々とだが着実に業績を上げている。
「…ありがと、いぶちゃん。
でも私は『一条』の名前がなければ何もない。フリースクールだって、光英学園を運営する一条の力がなければ作ることさえできなかった。
多くの企業の手綱をその手ひとつで操る花音とは生まれながらに持っている能力が違う。
決めたの。一条の、花音の為に生きるって。
それに、頂点に立つ人間は二人要らない。諍いのもとよ」
悲痛なまでの琴羽の決心に、いぶきは思わず手を止めた。
自分を卑下しすぎて、不憫だ。琴羽が本気になれば、花音などひとたまりもないかもしれない。それだけの能力を秘めている。一を聞いて十を知る。それくらい、彼女の仕事の吸収力は凄まじいかった。