あやかしあやなし
「そうか? おぬしの中に人食い鬼を入れて、それを操るなど大したものじゃが」

「操っていたわけではない。まぁ教本の通りに術をかけることには秀でていたかもしれんがな」

 馬鹿にしたように言う惟道を、横から小丸が、まぁまぁ、と宥めた。

「惟道は道仙に虐げられてたからねぇ。嫌っても仕方ないよ」

「虐げられていた……とも思わんが」

 小首を傾げて、惟道が言う。それなりに立派なお屋敷にあっても部屋も与えられず、粗末な納屋の藁の中で寝起きし、事あるごとに理不尽な命令を受ける。そんな状況であっても、通常の感情のない惟道は、さして何とも思わなかったらしい。

「でも惟道、道仙のことだけはやたら嫌うじゃない。やっぱり自分を苛めてきたからでしょ」

「俺のことなどどうでもいい。奴は道満殿を悪し様に言った。力もないくせに、おこがましいにも程があるというものだ」

 これにも小丸は、やれやれ、と肩を竦める。

「惟道の道満贔屓は、安倍の子息贔屓と似たところがあるのぅ」

 ほほほ、と笑いながら和尚が言う。基本的に驚くほど人に興味のない惟道だが、認めた者にはとことん懐く。懐く、というより全幅の信頼を寄せる、と言うほうがいいかもしれない。
 何とも不思議な惟道をぼんやり見ていた鬼っ子は、ふと持っていた椀を置いた。

「いいなぁ」

 ぽつりと呟くように言った鬼っ子に、惟道が怪訝な顔を向けた。

「聞く限り、惟道だっておいらと似たような境遇じゃない。少し人と違うってだけで、誰からも受け入れられずに来たんでしょ。なのに何でそんな、周りを信じられるの」

 おや、と小丸が鬼っ子を見、次いで惟道に目をやった。惟道は黙って椀の中身を平らげると、膳の上に戻しながら口を開く。

「信じる……というのは、どういうことだ」
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