あやかしあやなし
「久しぶり! 惟道、変わりはない?」

 安倍家に着くなり、章親は真っ先に惟道の様子を気に掛ける。陰陽師からすると三年も烏天狗を身の内に飼っているままというのが気になるのだろう。
 軽く頷き、惟道は、ぽん、と己の胸を叩いた。

「雛もすっかり元気になったようだ」

「元気になったら自然に出てくるもんだと思ってたけど」

 ちょっと心配そうに、章親が言う。

「まだ小さい時分に入ってしまったから、そういうことがわからんのかもな」

 特に気にすることもなく言う惟道からは、妖気が少し強く感じられるようだ。雛が元気になったからだろう。

「いきなり極上の器に入ってしまったからなぁ」

 渋い顔で、章親が言う。通常、物の怪が人に入っても、そう居心地がいいとは言い難いはずなのだ。
 だが惟道は違う。常人にはあり得ない感情の無さ故に、中に入ってもごく自然に過ごせる。心地よい洞窟に入った感じだろうか。

「雛にとって居心地がいいなら、それに越したことはない」

 己の身のことなのに、他人事のように惟道は言う。

「ま、それも解決できると思うよ」

 少し先を歩いていた章親が案内した部屋には、すでに客人が座っていた。

「おお、よぅ来られた。遠いところ、呼び立ててすまぬな」

 上座でにこやかに言うのは、大柄な山伏。惟道は首を傾げて章親を見た。

「僧正坊様だよ。さすがに烏天狗のお姿のままで都に降りてくるわけにはいかないからね」

 章親の説明に、ああ、と呟き、惟道は僧正坊の前に腰を下ろした。小丸もその横に座る。
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