あやかしあやなし
「烏鷺はもうすっかり元気なようじゃの」

 ぐっと前屈みになり、僧正坊は惟道に顔を近づけた。途端に惟道から漏れ出ていた妖気が強くなる。

「うむ。おぬし、何ともないか?」

 満足そうに頷きながら、僧正坊は惟道に尋ねる。

「ここまで元気な烏天狗を長期に渡って入れ続けるなど、普通は相当な負担なものじゃが」

「何ともない」

 さらりと言い、惟道はちらりと己の横の小丸を見た。小丸は先程から、僧正坊の少し後ろに控える男を気にしているようだ。
 それに気付いた僧正坊が、小丸に声を掛ける。

「そちらの狐は、こ奴がきになるか」

「……覚えはあるんだけど、気が違うというか」

 曖昧に答える小丸は、あまり友好的でない目で男を見ている。

「うむ、おぬしに気が違うと言われれば大したものよ。芯から心根が変わったということじゃな」

「恐れ入ります」

 ぺこりと頭を下げ、男が少し膝を進めた。

「鞍馬に登って三年余り。僧正坊様に鍛え直され、今は過去の己を恥じるばかり。鞍馬の寺には私よりも優れた者もごまんとおられる。ちょっとした術が使えたからといって自惚れていた私の鼻など、あっという間にへし折られてしまった」

「ああっ! やっぱり! やっぱりお前か!」

 小丸が大声と共に立ち上がり、びし! と男を指差した。

「纏う気が全然違ったからすぐにはわからんかったけど、そうだ! やっぱり物の怪狩りの首謀者じゃないか!」

 途端に惟道の後ろで小さくなっていた鬼っ子の体が強張り、惟道の中から妖気が迸り出た。

「あ、大丈夫だよ。初めに小丸が言った通り、気が変わってるということは、心根が変わったってことだよ。もうあの頃の彼じゃない」

 章親が鬼っ子の緊張を解すように言い、小丸も宥める。渋々ながらも、小丸も座り直した。
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