あやかしあやなし
 男が数珠の珠を繰る音と、低く唱える呪が重なって、見えぬ音がまるで鎖のように鬼っ子に纏わりつく。

「滅!」

 男が珠を握った拳を突き出した。その途端、鬼っ子が内側から爆発するように火を噴いた。章親も小丸も仰天し、その場で飛び上がる。

「ちょ、ちょっと……」

 我に返って火だるまの鬼っ子に駆け寄ろうとした章親は、すぐ横の惟道の様子が変なことに気付いた。胸の辺りを押さえ、苦しそうにしている。

「えっ! ど、どうしたの?」

 おろおろとしながら、章親は惟道と鬼っ子を交互に見た。傍から見たら火だるまな鬼っ子のほうが何とかすべきだろうが、章親は陰陽師である。この火が邪悪を焼き尽くす迦楼羅炎であることがわかったので、普通より落ち着いていられるのだ。ただ以前章親が使った迦楼羅炎よりも、大分炎の勢いが凄まじいので心配は心配なのだが。

 僧正坊が惟道に近づき、どこからか出した大団扇を振り被った。

「ふんっ!」

 ぶわ、と起こった風は不思議と惟道だけを目掛けて駆け抜けた。

「びゃんっ!」

 風に押されるように、惟道の中から一羽の烏が飛び出し、勢いに負けてころりと転がり叫び声を上げる。

「あっ! 雛! 大事ないかっ?」

 先程まで具合が悪そうだった惟道が、己のことそっちのけで転がる雛に駆け寄った。雛はきょとんとした後、すぐに惟道の胸に飛び込む。

「術に引っ張られたんじゃ。もう怪我はすっかり治っておるし、力も戻りつつある。これ以上人の中におったら、人の身が危険じゃからの、強制的に出したのじゃ」

 惟道に抱かれている烏鷺の頭を撫でつつ、僧正坊が言った。
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