あやかしあやなし
「居心地が良いからといって、あまり甘えておったらいかんぞ。惟道は稀有なる器なれど、ただの人じゃ。壊れてしもうたら、烏鷺も悲しいじゃろ?」

 僧正坊の言葉に烏鷺は小さく頷き、すり、と惟道の胸に頭を擦り付けた。

「惟道、体は大丈夫?」

 章親が聞くと、惟道はこくりと頷いた。確かにさっきまでの苦しそうな表情はない。烏鷺が出たことで治ったのだろう。
 ほっとしたのも束の間、視線を転じると、さっきまで火だるまだった鬼っ子が、炭になって転がっている。

「わーーっ! ちょちょちょ、ちょっとーーっ!」

 迦楼羅炎はただの炎ではない。邪悪なものこそ焼き尽くすが、人を丸ごと焼くことなどないのだ。いかに邪悪な人間であろうと、それは心根の問題なので、身が焼けることはない。

「やはり鬼は、根本から人ではないのであろうか」

 惟道が烏鷺を抱いたまま、無感情に言った。以前惟道の中にいた邪鬼は、章親の迦楼羅炎によって灰になった。あれはそもそも邪気の塊なので、跡形もなく焼き尽くされたわけだが、鬼っ子もそうだったということだろうか。

「そんなはずはない」

 男がずかずかと黒い塊に近づき、しゃがみ込んでぱんぱんと叩いた。

「む」

 何かに気付いたように一旦手を止め、さらにごそごそと塊をまさぐる。男が手を動かすたびに塊はぼろぼろと崩れて、それに章親は泣きたくなった。

「いい子だったのに」

 悲しそうに呟き、目頭を押さえる章親を、惟道と烏鷺が気遣わしげに見る。僧正坊は気まずげにぽりぽりと頬を掻きつつ、男に近付いた。
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