あやかしあやなし
「とりあえず、生きてるなら良かった。楓、盥に水を入れてきて。あと綺麗な布とね」

 気を持ち直し、章親が式に命じて水を用意し、鬼っ子の側に屈み込んだ。絞った布で拭ってやると、鬼っ子の状態がよくわかった。

「さすがに衣は何ともないね。でも体の中からの炎が強かったから煤けてしまったのか。ていうか、やっぱり体が酷いね……」

 鬼っ子が着ていた水干を脱がし、式である楓と共に煤だらけの体を清めていく。惟道も手伝いながら、注意深く鬼っ子の体を検分した。

「なるほど、術が体自体に及んでいたら、いくら迦楼羅炎でも身を焼いてしまうということか」

 惟道の額の傷は、切り傷だけではない。火傷の痕もある。重なった術の暴発で爆発したのもあるのだろうが、術の源の邪鬼が迦楼羅炎で焼かれたのも関係したのかもしれない。

「とはいえ俺のようにしばらく目覚めなかったら、連れて帰れぬな」

 言いつつ、惟道はちらりと小丸を見る。

「嫌だよ」

 反射的に、小丸はぶんぶんと首を振った。

「まだ何も言うておらぬ」

「言わんでもわかるよ。おいらの背に乗っけて帰ろうとか言うんでしょ」

「いつも帰りは俺を乗せて帰るではないか」

「惟道はいいんだよ。大体とっとと帰るために惟道を乗っけてるのに、そいつ乗せたら普通に惟道と歩いて帰ることになるじゃない。そんなんしんどいから嫌だね」

 つーん、と小丸はそっぽを向く。小丸はまだ下位の妖狐なので、狐になってもそう大きくない。人を二人も乗せることはできないのだ。
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