あやかしあやなし
「姿を隠す結界ぐらいは張っておろう。術者というよりは、うっかり行き逢った者から身を隠すほうを優先しておると思うぞ。おぬし、気を追うことなどできるのか?」

「少しであれば」

「心許ない」

 愛宕山はここ同様、神気が強い。人より気を読むことに長けているとはいえ、術師でもない惟道が、特定の気を追えるほどの土地でもない。

「ましておぬし自身は、穢れそのものがどういうものかもわからぬのであろ」

「いい感じのしない気、というのはわかる」

「そんな気、そこいらに漂っておるわ」

 うーむ、と悩んでいると、水盆を見つめていた章親が、つい、と手を上げた。

『僕が探すよ』

「でも烏兎は、陰陽師ってだけで逃げるよ」

 小丸が口を尖らせる。安倍家にいた、というだけの惟道をも避けたのだ。本物の陰陽師など、何をされるかわかったものではない。

『でも大怪我してるっていうのに、放っておけないよ。まして陰陽師のせいなんだし』

「あんたのせいじゃないんだよ?」

『そうであっても、人だろうと物の怪だろうと、怪我して死にそうなのを放っておくなんてできないよ』

 章親の言葉に、小丸は口を曲げた。笑いたいのを堪えているような、妙な表情だ。

「だから章親のことが好きなのだ」

 さらっと惟道が言う。相手が物の怪だろうと関係なく心配し、駆けつけようとする。見つければ、できうる限り全力で治療もするだろう。
 だから章親は、式神からも物の怪からも好かれる。素直でない分、人が一番章親の良い気を感じ取れないのは残念なことである。

『な、何を言うのさ、いきなり』

 章親が焦って惟道を見る。思ったことをそのまま口に出す惟道は、思ったままを言うので言葉足らずになりがちだ。だが自覚がないので補足もしない。
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