あやかしあやなし
「魔﨡、こ奴食ってくれ」

「我はそんなもの食わん。美味そうでもないしの。つか我に指図していいのは章親だけぞ」

「章親にも害なす者だ。物の怪を狩りまくって都の均衡が崩れれば、陰陽師の失態になるやもしれぬぞ」

「それはいかん。なら滅してしまおうかの」

 惟道と物騒な会話をし、魔﨡が錫杖を構えて中腰になる。楽しげな表情だ。錫杖の先の少年が、ひっと息を呑んだ。

「ちょっと、ちょっと待ってって。大体何もまだわかってないのに、いきなり滅するとか駄目だよ」

 章親が慌てて魔﨡を止める。が、惟道がその章親を止めた。

「わかっているではないか。こ奴らは都を壊そうとしておるのだぞ。道仙のような輩だ。害こそあれ利などない」

「そうじゃ。物の怪をもってして都を害そうなど、ひいては章親を害そうとしているも同然よ。そのような者、野放しにはできぬ」

 惟道はともかく、魔﨡の言い分は如何なものか。だがそんな魔﨡は、言いつつ早くも錫杖を振り上げている。

「待ちなさいって。そもそもこの人たちが自分の意思で動いてるのかも怪しいでしょ」

 さささっと少年と魔﨡の間に入り、章親が言う。そしてくるりと振り向くと、素早く印を結んで呪を唱えた。ぽ、と章親の指先に光が灯り、それがふわりと少年を包んだ。

「な、何をする」

 少年が慌てて光に包まれる己の身を叩きながら言った。光は特に熱を持っているわけではなく、ただ少年を包んでいるだけだ。

「あれ、浄化が効かない……」

「何じゃとっ?」

 さっきまで錫杖を構えて殺気を放っていた魔﨡が、途端に章親に駆け寄る。
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