あやかしあやなし
「惟道っ! 惟道が怒るのも無理ないけど、人は色々ややこしいんだ。この人を雛と同じようにしたら、さすがにまずいよ」

 陰陽師自体の官位は低いとはいえ、地下人である惟道が変に手出しすれば捕縛されるかもしれない。だが章親の言葉に、惟道はちらりと視線を動かしただけだった。

『このような者、同じ目に遇わねば己のやったことがわかるまい』

 がしゃぁん、と派手な音を立てて、錫杖が青年を打つ。音は派手だが、そもそも惟道がこういうものを扱い慣れていないせいか、軌道は定まらず急所を狙っているわけでもない。魔﨡であれば頭を潰すか、錫杖の先で急所を突くのではないか。

「章親、何を考えておるのじゃ」

 ちらりと思ったことに、魔﨡がじろりと睨みを利かす。

「我とてむやみに錫杖を振るうわけではないぞ。大体ここでそのようなことをすれば、章親が困ろう」

「う、ま、まぁそうだけど」

「そもそもあの錫杖では、少なくとも人は殺せん」

「え?」

 今のように叩いただけでは死なないだろうが、あの槍の穂先のような錫杖の先で突けば、ひとたまりもないのではないだろうか。章親が聞くと、魔﨡は若干気分を害したように顔をしかめた。

「我は龍神ぞ。邪悪なるものを滅しこそすれ、生けるものを打ち殺したりせぬ」

「ん、まぁそうだね」

 龍神は邪神ではない。

「そういえば、あの錫杖の綺麗な音は浄化作用もあるものね」

「章親ほどではないがな」

 単なる人である章親の呪が、龍神の錫杖よりも力が強いわけはないのだが、当たり前のように魔﨡が言う。照れ臭いやら嬉しいやらで、章親は視線を戻した。
 そんなほのぼの(?)な章親らとは一転、前方では青年がびしばしと惟道に打たれている。
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