あやかしあやなし
「や、やめろ! 貴様、許さんぞ!」

 たまりかねて、青年が叫んだ。いまだ鼻っ柱が折れていないところが凄い。この者は惟道の中に何かが入っていることに気付いていないのか。ぶわ、と惟道を包む妖気が強くなった。

『貴様はまだ己の立場がわかっておらぬようだな。人の身分がどうあれ、鞍馬の頂点に立つ我には毛ほども関係なきことよ』

 どん! と錫杖を床に突き立て、惟道が言い放った。

「く、鞍馬の頂点?」

 青年はもちろん、その場の誰もがはっとした。黒く強い妖気と鞍馬山といえば、自ずと知れる。

「ま、まさか、本当に烏天狗だというのか……?」

 青くなった青年の口から漏れた言葉に、吉平が怪訝な顔を向けた。

「おぬし、何かもわからず攻撃しておったのか?」

「う、い、いえ……。その、わ、罠にかかるのは物の怪ですので。人に害はありませぬ」

 つまり罠にかかったものは人ではないので、全て攻撃対象だった、というわけだ。

「さっきも言っただろ! お前は人であっても罠の上にいればかかっているとみなしたじゃないか! かかったものが何かもわからない、それどころか、かかっているのかもわからないくせに、罠の上にいるもの全てに対して攻撃するなんて、罠は人に害がなくても、惟道の言う通り、お前が百害あって一利なしだよ!」

 小丸がびし、と青年を指差して吠える。こちらもあまりの怒りに尻尾が出ている。
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