あやかしあやなし
「大事ない。それより雛は大丈夫なのか? 窮屈ではないか?」

 通常の声で、惟道が返す。見ているほうからすると一人芝居なので、かなり滑稽だ。なるほど、これから何かを己の身に降ろすときには、自分の意識は変にないほうがいいかも、と章親はひっそり思った。もっとも人の身に何かを降ろすということ自体、そう出来ることではないが。

『烏鷺は大丈夫じゃ。そもそも器の内部というのは、何もその者の見た目の容量しかないわけではないからの。異空間、と思えばよかろう』

「そうなのか」

『……おぬし、素晴らしい器であるのに、何も知らぬのか?』

「俺は術師ではないからな」

 言った後で驚いた顔になる。堪らず章親が割って入った。

「ちょっとちょっと。ちょっと申し訳ないんだけど、惟道の中に入ったままで惟道と喋らないで。そもそも惟道は元々そんな子じゃないんだから、見てるこっちは違和感しかなくて、どうしていいのか困るよ」

 いつも無表情の能面惟道が一人芝居で百面相をするのは意外性がありすぎて、こちらが居たたまれなくなる。

『おぬしは晴明の孫じゃな。そういえば挨拶もまだじゃの』

 言うなり惟道は、章親の前にどっかと座った。

『わしは鞍馬山の僧正坊じゃ。おぬしもこの烏鷺を救うのを手伝ってくれたようじゃの、礼を言うぞ』

 軽く頭を下げる。ぽかんとした後、章親は目を大きく見開いた。

「って、えええっ! 僧正坊っ?」

 すささっと下がり、章親は思わず床に手を付いた。僧正坊といえば鞍馬天狗の、さらには全ての天狗の総大将だ。
 そういえば、鞍馬の頂点に立つ者、とか言ってた、と青くなる。しかし大天狗には一体どういう態度で接すればいいのだろう。見てくれは惟道なので、どうしても気安くなってしまう。
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