あやかしあやなし
 ひとしきり笑った後、章親はきょとんとする惟道の身体を、ぽんぽんと叩いた。

「うん、僧正坊様は悪いものじゃないし、祓いは必要ないね。ちょっと妖気が残ってるけど、それは雛の力になるだろうし」

「そうだ、雛は何ともないか? ここに来る前に力を使ったお陰で、かなり弱っていた」

「うん? ああ、大丈夫だよ。さっき僧正坊様が言ったように、僧正坊様の力を少し貰ったみたいで、初めよりも元気になってるみたい」

「そうか」

 ほっと、惟道が安堵のため息をつく。そんな惟道の気持ちが中の烏鷺にも伝わったのか、何となく惟道の空気がほんわかしている。
 烏鷺は惟道に懐いているようだ。術師に向けてありったけの気を放ったのも、惟道を守るため。中に自分がいるから、とも考えられるのだが、自分のためだけであれば、死ぬかもしれないほどの力は出さないだろう。

「あのさぁ。その雛、回復したらどうやって出てくるの?」

 ふと、小丸が惟道を見ながら言った。章親も、そういえば、と首を傾げる。

「入るときは口からだっけ? じゃあ出るのも口かな?」

 言いながら、章親は僅かに顔をしかめた。想像しただけで苦しそうだ。

「惟道、入るときって息苦しさとかあった?」

「いや。俺は意識がなかったし」

 惟道も首を傾げながら言う。

「あの時、初め雛は自分で入ろうとしたよね? それもやっぱり口から入ろうとしたの?」

 何となく惟道の胸元辺りに向かって聞いてみる。聞いたところで他の者には雛の言うことなどわからないのだが。

「……雛も、よくわからんらしい」

 ややあってから、惟道がぽつりと言った。何となく惟道の胸の上で、入ろうと思えば入れると思ったようだ。
 物の怪が人に乗り移るときは、そういうものなのだろう。どこからどうやって、とか考えなくても入ろうと思えば何となく入れる、そういうものだ。
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