あやかしあやなし
「いや待ってよ。乗り移るのは、そうかもしれない。何となくわかるような気はするけども。でもそれは実体のないものだよね?」

 乗り移る、というのは実体のないものが実体のあるものに入り込むことだ。先の僧正坊のようなもの。空気のようなものなので、何となく出入り自由な気もする。
 だが雛はそうではない。瀕死ではあったが、実体はある。

「えっ……。ちょ、ちょっと、考えたら怖いんですけど」

 章親が青くなる。その横で、魔﨡がぼそっと呟いた。

「我の眷属で外つ国の蛇神は、捕まえた悪鬼に卵を産み付け、それは孵ると同時に悪鬼を食い破って出てくるそうじゃ」

「ぎゃーーっ! 何それっ!」

「惟道の腹を食い破って出てくるのではないか?」

 発狂する章親に追い打ちをかけるように、魔﨡が錫杖の先で、ちょん、と惟道の腹を指す。

「……雛は腹におるわけではないと思うが。俺が食ったわけではないしの」

 不思議そうに、惟道が言う。どこにいるかは問題ではない。身の内にいること自体が問題なのだ。

「ど、どうしよう。実体のあるものを引き出す術なんてあったかな。悪霊祓いならわかるけど」

 当の本人よりも慌てながら、章親が頭を掻きむしる。ちょっと魔﨡が、ばつが悪そうに頬を掻いた。

「そう焦らなくとも大丈夫じゃろ。烏天狗は人など食わん」

「魔﨡が宿主を食い破るって言ったんじゃないか」

「いやまぁ、それはほんの一例よ」

「でも実体があるのは確かだよ。どうすればいいかもわかんないし……」

「あの大天狗が特に何も言わなんだなら、そう心配することもあるまいよ」

 よしよし、と章親の頭を撫で、魔﨡は満足そうに口角を上げた。惟道ばかり気にかける章親に、若干焼きもちを焼いていたらしい。少し苛めて満足する辺りが単純だ。
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