あやかしあやなし
「あまり雛の負担になるようなことを言うな。怯えておるではないか」

 己の胸に手を当てて、惟道が言う。自分の身体が食い破られるとか話しているのに、そんなことよりも食い破るほうを心配している。関係のない章親のほうが、余程慌てているのだが。

「えっと、てことは、雛も出方はわかんないってことなのかな?」

「どうだろう。そうなのか? ……おっと」

 己の中身に問うた途端、惟道は少し驚いたように前屈みになった。ぽんぽん、と己の胸を叩く。

「泣くでない、気にするな。叱っておるわけではない」

「どうしたの?」

「泣いてしもうた」

 気遣わしげに、ぽんぽんと胸を叩く惟道を、章親は微妙な表情で見た。そして、つい、と小丸を見る。

「中に入ってるものって、そんなにどういう状態かわかるもんなの?」

 問われて小丸も、首を傾げた。

「さぁ。ていうか、普通は中に入ったものなんかとお話なんてできないよ。まず自我が保てないし。惟道は、まぁ……その辺特殊だし、物の怪にも好かれるからわかりやすいんじゃない?」

「そういうもんかな」

「雛もすっかり惟道に懐いてるしさ。きっと考えなしに入っちゃって、出方がわかんないから泣いてるんだし。下手したら雛が惟道を殺しちゃうかもしれないしね」

 小丸が言った途端、惟道が仰け反った。

「小丸、雛を苛めるでない。折角泣き止みそうだったのに、大泣きになってしまったではないか」

「……そんなことよりさ、惟道、自分の身を案じたら。このままだと雛に喰われて死んじゃうよ?」

「それしか出る方法がないなら仕方なかろう。元気で出られるなら何よりだ」

 しれっと言う。そして、相変わらずとんとん、と胸を叩いた。

「おぬしはそんな心配せずとも、ゆっくり養生すればいいのだ」
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