あやかしあやなし
「わかってないねぇ。雛は惟道が好きだから、出る方法がわかんなくて泣いてるんじゃないか。惟道を殺すことを何とも思ってないなら泣いたりしないよ」

 ちちち、と指を振って言う小丸に、惟道はきょとんとした。

「雛は、惟道を殺したくないから、困り果てて泣いてるんじゃないか」

「だから、そんなこと気にせずともよい」

「そうはいかないんだって」

 ため息と共に、小丸が惟道の肩を叩く。そして章親を指差した。

「章親の中に惟道が入ってたらどうよ? 章親が気にせず出てこいって言っても、惟道は言う通りにできる?」

「その前に、俺は瀕死になっても章親の中になど入らん」

「例えばの話だよっ! 瀕死の状態で、惟道の意思なんか関係なく入っちゃうかもしれないじゃん」

 うむむ、と惟道は腕組みして考える。

「……そのような場面は想像するのも難しいが……。でも章親が気にせず出てこいと言っても、章親が死ぬのであれば出ぬな」

「でもそのまま惟道が中にいると、どっちにしろ章親の身が危険となればどうする?」

「それは……困るな」

 なるほど、と頭を悩ます。惟道には具体例を挙げないと、心を理解することはできない。それも惟道が唯一大事に思う人間を引き合いに出さねばわからないと思われる。

ーーーいや、和尚さんでもいかも。それとか、物の怪相手だったらわかるかもねーーー

 そう考え、小丸はまた、ひっそりとため息をついた。
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