あやかしあやなし
第八章
 結局烏鷺はそのままに、惟道は小丸と帰路についた。術師は捕まえたし、京から出てしまえば小丸の妖力でひとっ飛びに帰ることもできたのだが。

「はぁ~。惟道一人だったら、おいらに乗っけて帰れるのに~」

 ぶつぶつ言う小丸の後ろには、鬼っ子がついてきている。

「仕方なかろう。章親の頼みだ」

 惟道の言う通り、鬼っ子は章親の提案で、惟道に託された。
 見た目はほとんど人と変わらないが、歯はともかく、耳は何かの拍子に見られる可能性がある。それによってまた迫害されるのも可哀想だ、ということで、京から離れた化野の地で預かることになったのだ。

「それに今は子供だから力がそうないだけかもしれぬ。大人になれば、鬼の本性が出るかもしれぬぞ。そんなものを章親の側に置いておけるか」

「そんな物騒なもの、預かりたくないんですけど」

「人のほうが、余程物騒だ」

 憮然と言う惟道に、鬼っ子は少し目を見開いた。今日の惟道の言動を見ていても、どうも人より物の怪寄りだ。見た感じも何となく人らしくない。章親も、惟道は特殊だ、と言っていた。

「ね、ねぇ。あんたも人ではないの?」

 思い切って聞いてみる。が、惟道は冷たい目を向けた。

「初めに言ったであろう。俺は単なる人間だ」

 ぴしゃりと言われ、鬼っ子はしゅんとなる。物の怪寄りに見える惟道だが、鬼っ子には厳しいような。

「惟道はさぁ、やっぱり物の怪でも人っぽいものは嫌いなの?」

 小丸が、ちらりと鬼っ子を見ながら言う。別に惟道は人嫌いなわけではない。驚くほど興味がないだけだ。

「人っぽいとか、そういうことではない。こ奴は物の怪の敵だぞ」

 冷たく言い、惟道はすたすたと先を歩く。小さい鬼っ子を気遣う風もない。
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