【短】アイを焦がして、それから
「あたしだって、本当は、気づいてたの。今のあたしはリタ先輩を真似てるだけ。……でも、あたしらしさなんか、今さらわからないよ。髪を切っても、やっぱり変わらない」
湿った髪の毛をつまみ上げ、投げやりに捨てた。
ぽたり、水滴が落っこちる。感情を置いてけぼりにして、きらきらと。皮肉なほどに輝きは褪せない。
「あたしじゃない誰かなら、見つけてくれるかなって思ったの。他人に任せちゃって、あたし、かっこ悪いよね」
「かっこ悪くなんてないです! たとえかっこ悪くても、それはそれでいいんです! 服部さんのこと知れたから、いろんな表情を撮らせてくれたから、僕は……っ、」
幸せ、なんです。
「……甲斐田って、イイヤツだよね」
せっかくのシャッターチャンス。
なのに、おかしいな。
指がぴくりとも動かせない。
全神経にチクチクと針を刺されてるみたいに痛む。
「ごめんね。あたしのわがままに付き合ってくれてありがと」
やだ。嫌です。
だって、それって。
「撮影会ごっこは、もう、終わりにしなきゃ」
僕はずっと、本気だった。
たった数枚のフィルムじゃ、全然足りない。
いつの間にか僕のわがままのほうが積もり積もっていた。
「自分で、頑張らなきゃ」
もう一度「ごめん」と繰り返し、あっけなく彼女のはフェンスの向こうに消えた。
さよならだ。
別世界に行かれてしまえばもう、手を伸ばしても届かない。
ただのイイヤツをいつまでも味方のままでいさせてもくれないんだ。