Gypsophila(カスミ草)~フラれ女子番外編
別に、油断していたわけじゃない。
どんな人も常に全力を尽くしていたし、完璧の上に更に完璧を目指していた。
ただ、意外な人が裏切った。それだけのこと。
穏やかな日々が続いて3年。不思議と何もなく過ぎて、いつもの女王陛下の定期検診の日だった。
陛下御自らのわざわざ病院に足を運ばせるわけにはいかず、いつもの医師団が王宮で診る形になる。
3歳になったレイ王子はちょこまかと動き回る活発な王子で、侍従長のぼくも一刻も目を離せないって感じ。
『カール、いしゃのじぃじきたの?』
『まだですよ、殿下。今日こそ大人しくなさってくださいね』
『じぃじがおかしいっぱいくれたら!』
むむむ……3歳ですでに交渉術を身に付けた王子、恐るべし。
絶対、自分の可愛さや端正な顔だちをわかってて利用してるよね、レイ王子は。
じぃじと親しげに呼ぶように、レイ王子は医師団の御典医長をずいぶん慕ってる。実の祖父はいないから(父方もすでに他界)、祖父のように思ってらっしゃるんだろう。
御典医長も、生まれる前からサポートしているだけあり、レイ王子を孫のように可愛がっている。まあ、甘すぎて来るたびにお菓子やらおもちゃをどっさり持ち込み、他の医師には苦笑いされてるけどね。
「それでも、ですよ。たとえご褒美がなくても人は我慢しなきゃいけない時もありますから」
「む~……」
どうやら、レイ王子にはご不満な様子。仕方ないな、とねだられるままに抱っこをして女王陛下のいらっしゃる部屋へ移動。ほんとは馴れ馴れしいと禁止されてるけどね。
叔父さんとともに、“じぃじ”の御典医長が、いつものように紙袋を抱えてる。きっとまた……とほほえましく思い、レイ王子を床へ下ろす。
王子は弾かれたように“じぃじ”へ駆け寄った、その刹那ーー
御典医長の抜いた白刃が、レイ王子を襲った。