Gypsophila(カスミ草)~フラれ女子番外編

日本へ渡ってからはお母様は女王陛下へ「身分を忘れて生きてください」と告げた。

レイ王子殿下はとある病院の著名な秋吉という医師に預けられ、治療を受けることができた。
この医師は実はお母様の組織の一員であり、ミルコ女王陛下やレイ王子を診せても心配はないんだ。

回復したレイ王子は何もかもを怖がるようになり、特に暗闇を恐れて夜は侍従だったぼくか乳母のお母様が居なければ眠れないほどだった。
当然、普通の子どものように幼稚園に通えるはずもなく。小学校に入学するまでは、と日本に馴染むための努力をした。

ただ、意外だったのは女王陛下。

「……レイの母親としてできることをしたいわ。わたくし自身でこの子を育てたいの……アキトとの約束だもの……それに、自分たちだけで生きたい。かつての女王ではなくこの国では何の身分もない一般人だものね」

悲しげな顔で強い決意を見せられたら、なにも言えない。ミルコ様は体が弱っているにもかかわらず、アルバイトをはじめて一生懸命に働かれた。
慣れない労働に心身とも磨り減るのがわかってはいても、決意が固く止めようがない。
僕たちの援助を徹底的に拒む意思の強さに、どうして抗えるだろう。

皮肉にも、今こうなって初めてミルコ様は“生きている”と実感されたのか……生き生きとされていた。レイ様も成長されるにつれ、次第に近所の子どもと遊ぶくらいには回復し、無事に小学校へ。

かつてない、穏やかな日々。
けれど、長年の病や毒に侵された体が無理に耐えられるはずもなく。

レイ王子が中学を卒業した翌日、ミルコ様は亡くなられた。
切り詰めた生活のなか、高校大学への進学費用を遺して。

レイ王子はそれに手をつけることなく奨学金とアルバイトで自力で卒業し、ミルコ様が遺されたお金は会社を興す資金へ使われた。日本にいながらにして、グレース王国へ関わるために。IT企業ならばネットを通じ取引できる。
有名になるのも信用されるための布石。グレース王国から重要な基幹システムの受注を受けた時から、後に成功する革命のための準備は始まっていたんだ。

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